最終更新:2026 年 10 月 6 日
ネットゼロとは、温室効果ガスの排出量と吸収源による吸収量を均衡させることです。企業にとっての出発点は、排出量を把握して継続的に削減し、除去が難しい残余排出に段階的に対応することです。台湾の 2050 年ネットゼロへの道筋は国全体の転換の方向を示しています。企業には、その方向を、境界と責任者を明確にし、成果を追跡できる行動へと落とし込むことが求められます。
ネットゼロとは?なぜ排出ゼロとは違うのか?
ネットゼロは排出と除去の均衡に着目するものであり、すべての活動を完全に排出のないものとして説明する必要はありません。「気候変動対応法」第 3 条では、ネットゼロを温室効果ガス排出量と吸収量の均衡と定義しています。同法の吸収源には、温室効果ガスを持続的に除去し、吸収または貯留できる自然・人工の施設や場所が含まれます。
そのため、企業が説明すべきものは最終的な数値だけではありません。排出の対象となる主体、算定期間、実施する対策、残余排出の処理方法も必要です。ネットゼロの宣言を読む際は、約束した達成年とすでに得られた成果を分けて捉え、途中経過を追跡できる行動が示されているかを確認しましょう。
今年インベントリを作成したのであれば、それは排出データを把握したということです。設備の更新を始めたのであれば、それは削減行動です。いずれも前進につながる取り組みですが、実施成果や均衡の条件を示さずにネットゼロを達成したと宣言することはできません。単に「ネットゼロ企業」と名乗るよりも、具体的な段階で進捗を説明する方が、顧客の理解につながります。
ネットゼロとカーボンニュートラルの違いは?
企業や製品のレベルでは、両者の用途と達成条件を分けて考える必要があり、同義の認証として扱うことはできません。ネットゼロは転換と目標管理に関する課題です。一方、カーボンニュートラルの宣言には、対象となる主体、境界、期間、残余カーボンフットプリントを均衡させる方法の説明が必要です。
| 比較項目 | 企業のネットゼロ目標 | カーボンニュートラル宣言 |
|---|---|---|
| 最初に確認すること | 科学的な道筋に沿って、企業は削減と転換をどう進めるか? | どの組織、製品またはサービスの、どの期間について宣言するか? |
| 必要な基盤 | インベントリデータ、削減目標、転換に向けた行動と進捗 | カーボンフットプリントの算定、削減成果、残余量とオフセットの証拠 |
| 外部クレジットの役割 | 目標に関する基準に従い、企業自身の削減の代わりにはしない | 適用基準に従い、削減後の残余カーボンフットプリントを補償する |
| 安易に結び付けてはいけないこと | 目標の認定は目標達成を意味しない | 単一の主体のカーボンニュートラルは企業全体のネットゼロ達成を意味しない |
ISO 14068:2026 の公式説明では、この規格は組織と製品のカーボンニュートラルを扱い、温室効果ガスのネットゼロに関する要求事項や推奨事項を定めていないと明示しています。SBTi 企業ネットゼロ基準の説明も、企業の排出削減と追加的な気候貢献を区別し、後者は前者を代替できないとしています。宣言の手順については、カーボンニュートラルの解説ページをご覧ください。
ネットゼロに注目すべき企業とは?まず自社との接点を見つける
気候目標の設定、顧客からの排出関連要請への対応、設備投資の計画に取り組む企業は、ネットゼロへの道筋を使って準備の順序を確認できます。まず対応が必要な事項を洗い出し、インベントリ作成、削減、開示の優先順位を決めることをお勧めします。
- 法規制:インベントリ登録、検証、炭素賦課金の対象かを確認し、申告義務と自主目標を分けて管理します。
- 顧客:求められているのが組織の排出量、製品カーボンフットプリント、削減目標のどれかを確認し、要請に合わない資料の提出を防ぎます。
- 事業運営:設備更新、燃料使用、調達に関する意思決定を整理し、年度予算に組み込める改善活動を見つけます。
- 対外発信:整備済みのデータ、実施中の対策、将来の約束を分けて示し、成果を裏付ける証拠を確認できるようにします。
これは企業のニーズを整理するための提案であり、新たな法規制の一覧ではありません。インベントリの範囲を先に判断する必要がある場合は、温室効果ガスインベントリ登録の解説も参照してください。計算や準備の手順は、カーボンインベントリ入門から確認できます。
台湾の 2050 年ネットゼロへの道筋のポイントは?
台湾は 2022 年 3 月 30 日にネットゼロへの道筋を公表し、4 つの転換、2 つのガバナンス基盤、12 の重点戦略により推進しています。4 つの転換はエネルギー、産業、暮らし、社会、2 つのガバナンス基盤は科学技術の研究開発と気候関連法制度です。
枠組みと公表日は、国家発展委員会の 12 の重点戦略を、全体の道筋は、台湾 2050 年ネットゼロ排出への道筋をご覧ください。下表に戦略名をすべて掲載しています。右欄は社内で議論を始めるための問いであり、すべての産業が同じ技術を採用しなければならないという意味ではありません。
| 重点戦略 | 企業がまず議論できる問い |
|---|---|
| 風力発電/太陽光発電 | エネルギー調達時に、供給源と供給条件をどう確認するか? |
| 水素エネルギー | 製造工程で代替燃料の適用可能性を評価する必要があるか? |
| 先進エネルギー | どの研究開発の方向性が長期的なエネルギーの選択に影響するか? |
| 電力システムと蓄電 | 電力需要、供給の強靱性、負荷配分をどう統合するか? |
| 省エネルギー | どの設備や運用方法から改善できるか? |
| 炭素回収・利用・貯留 | 排出削減が難しい工程で、こうした技術の条件を継続的に確認する必要があるか? |
| 輸送手段の電動化と脱炭素化 | 車両更新時に、輸送手段とインフラをどう評価するか? |
| 資源循環と廃棄物ゼロ | 原材料の損失を減らし、再利用プロセスをどう改善するか? |
| 自然の炭素吸収源 | 吸収源を計画する場合、除去効果と持続性をどう証明するか? |
| ネットゼロに向けた環境に優しい暮らし | オフィス業務、調達、サービス設計で何を変えられるか? |
| グリーンファイナンス | 投資判断にどのような排出・転換データが必要か? |
| 公正な移行 | 転換が従業員、サプライヤー、地域社会にどう影響するか? |
企業はまず自社の事業に直接関係する項目を選び、担当部門と評価用データを整理できます。車両更新が必要な会社であれば、各戦略を互いに無関係な案件に分割するのではなく、輸送手段、電力需要、従業員の操作訓練を合わせて検討できます。
台湾の 2050 年ネットゼロの法制化は、どのような義務を意味するか?
2023 年に改正・公布された「気候変動対応法」は、2050 年の温室効果ガス排出ネットゼロを国の長期削減目標に位置付けました。この国家目標は、すべての企業が直ちに同一のネットゼロ認証を取得する義務を意味しません。個別の義務は、適用される条文と公告に基づき別途判断する必要があります。
| 時期と根拠 | 内容 | 企業としての捉え方 |
|---|---|---|
| 2022 年 3 月 30 日 | 台湾のネットゼロへの道筋を公表 | 転換の枠組みと注目すべき分野を理解する |
| 2023 年、「気候変動対応法」第 4 条 | 2050 年ネットゼロを国の長期目標に位置付ける | 自社のインベントリ作成、検証、炭素賦課金、開示の義務を別途確認する |
| 企業が定める目標と見直し期間 | 採用する基準と自社の状況に応じて計画する | 基準、範囲、対策、追跡方法を明記する |
法的根拠は、「気候変動対応法」です。本稿は道筋の枠組みを紹介するものであり、各年の道筋に示された技術シナリオを、個々の企業に対する固定的な排出枠として扱うものではありません。投資判断を行う場合は、関連業種や技術について、その時点の政策を別途確認してください。
企業の第一歩は?インベントリを削減活動につなげる
まず比較可能な排出データの基盤を整え、排出の多い領域を、責任者と確認方法が明確な行動へつなげることをお勧めします。GHG Protocol 企業基準は組織インベントリの基礎を提供し、Scope 3 基準はバリューチェーンの排出と改善機会の特定を支援します。以下は、それらに基づいて整理した準備の順序です。
| ステップ | 実際の作業 | 確認可能な成果 |
|---|---|---|
| 目的と境界の確認 | 適用規範、拠点、期間、バリューチェーン活動を明確にする | 対象範囲の一覧とデータ責任者 |
| インベントリ基盤の整備 | 燃料、エネルギー、調達などの活動量データを整理する | 出所、係数、仮定を付した排出データ |
| 削減機会の特定 | 設備、エネルギー、サプライチェーンの改善策を比較する | 対策一覧、予算、想定される影響 |
| 目標の設定 | 基準年、目標期間、適用方法を確認する | 定量化でき、追跡可能な目標の説明 |
| 継続的な見直し | 実績を比較し、差異を説明して対策を調整する | 成果の記録と次期の改善計画 |
着手時はデータを「確認済み」「推計が必要」「未入手」の 3 欄に分け、報告を完全に見せるために制約を省かないようにしましょう。評価中の対策については、見込まれる削減と実現済みの削減を区別してください。年次見直しでも、生産量、境界、方法の変更の有無を説明し、比較できない数値をそのまま差し引かないことが大切です。
SBTi とは?適用するバージョンの選び方は?
SBTi は科学的根拠に基づく削減目標のイニシアチブであり、企業が科学的根拠に基づく削減目標を設定するための基準を提供します。目標の審査は SBTi Services が担当します。目標の設定や審査通過は目標管理の一段階であり、ネットゼロ達成の証明ではありません。
本稿の更新日時点で、SBTi は企業ネットゼロ基準 V2.0 を公表しています。ただし、公式のバージョン移行案内では、2026 年に目標を提出、更新、または再設定する企業に、引き続き V1.3.1 の使用を推奨しています。V2.0 による目標提出の受付開始は 2027 年第 1 四半期の予定です。「新基準が公表された」ことを「すべての申請で直ちに新版を使う」と解釈してはいけません。
実務上は、自社と業種に適用される道筋、目標の境界、提出時期を先に確認してからデータを準備します。各バージョンの具体的な条件を混在させず、一律の削減率だけで総合的な判断を代替しないようにしてください。基本的な分類は、Scope 1・2・3 の解説をご覧ください。
ネットゼロに関するよくある質問
ネットゼロに関する主張を判断する際は、主体、目標、成果を合わせて確認してください。以下では、企業が計画を始める際に特に明確にしておきたい疑問に答えます。
2050 年ネットゼロの法制化後、すべての企業が直ちに認証を申請する必要がありますか?
「気候変動対応法」第 4 条が定めているのは国の長期目標であり、すべての企業に直ちに同じ認証の取得を求めるものとは解釈できません。企業は、自社に適用されるインベントリ作成、炭素賦課金、開示の規定と顧客要請を別途判断する必要があります。
企業が最初に行うべきことは、クレジット購入ですか、インベントリ作成ですか?
まず目的と境界を確認し、排出源、活動量データ、基準年のインベントリを整理してから、実行可能な削減策を見つけることをお勧めします。これらのデータがなければ、改善の優先箇所、必要な資源、残余排出量を判断することが難しくなります。
SBTi とは?目標が承認されればネットゼロ達成となりますか?
SBTi は科学的根拠に基づく削減目標のイニシアチブであり、企業の削減目標設定のための基準と方法を提供します。目標の審査は SBTi Services が担当します。目標の審査通過と実際の削減成果は別であり、企業は引き続き計画を実行し、進捗を追跡する必要があります。
Scope 3 のデータがそろっていない中小企業でも着手できますか?
まずバリューチェーン活動、データの出所、不足箇所を整理し、適用方法に従って仮定を説明できる初期推計を作成したうえで、重要項目を改善できます。対外開示の要否と対象活動は、適用基準と顧客要請を確認する必要があり、データがないことを排出がないこととみなしてはいけません。
次のステップ:追跡可能な排出データの整備
まず、カーボンインベントリの手順に沿って排出源と証憑を整理し、削減活動と目標設定を進めましょう。Sustaihub のDCarbonは、組織カーボンインベントリの自動化、AI 証憑アシスタント、AI インベントリ報告書、製品カーボンフットプリント計算を提供し、ISO 14064-1、ISO 14067 に対応しています。システムはデータ整理と計算を担い、正式な検証は第三者機関が実施します。
カーボンマネジメントの基礎知識シリーズ
カーボンインベントリを起点に、必要に応じて法規制、費用、排出削減目標へ理解を広げましょう。
- カーボンインベントリとは?企業の 5 つの作成ステップ、法規制の要件とツールの選び方
- 温室効果ガスインベントリ:登録が必要な企業は?スケジュール、実務ガイドとカテゴリ 1~6
- 炭素賦課金とは?料率、徴収対象、計算方法と納付スケジュール
- カーボンフットプリントとは?製品の算定、ISO 14067 と排出係数の調べ方
- Scope 1・2・3 とは?Scope 3 の 15 カテゴリと ISO 14064-1 の分類との対応
- カーボンクレジットとは?台湾の取引、価格、炭素賦課金への充当ルール
- ネットゼロとは?台湾の 2050 年ネットゼロへの道筋と企業の第一歩(本稿)
- カーボンニュートラルとは?ISO 14068-1、2026 年新版と台湾環境部(Ministry of Environment)の宣言ガイド
